『 鳥になって ― (3) ― 』
駅前のロータリー ・・・ 申し訳程度にベンチが設置されている。
冬は吹き曝し 夏は炎天下なので 人気はない。
時折 カラスが止まっている程度 である が。
今日は 若い男の子が一人、ず〜〜〜〜っと座り続けている。
タップ タップ タップ −−−−
ジョーはスマホに憑りつかれた?みたいに じ〜〜〜〜〜〜っと
掌の画面を見つめている。
指がちゃんと動いているので どんどん画面をスクロールしているらしい。
「 ・・・ そっか そっか ・・・ そうなんだ?? 」
時々なにやらぶつぶつ言っている。
やがて画面を見つつ ごそごそ・・・ポケットをさぐり
メモを引っ張り出した。
「 ・・・・ え〜〜と まずぅ〜 順番は 〜〜〜 」
膝の上で くちゃくちゃとメモを取り始めた。
そんな様子を眺めているヒマ人は だ〜〜れもいないので
なんで画面保存 とかしないの?? とツッコミも飛んでこない。
― やがて ・・・
「 よ〜〜し。 今日はがっつり。 美味しいシチュウ、作るぞぉ
うん。 そっかあ〜〜〜〜 ふうん 」
スマホをポケットに突っ込んでから しみじみ・・・メモを眺める。
多分 彼自身にしか読めないだろけれど。
「 初めに 火をつける前にニンニク。
それから香味野菜 ・・・ これ なんて読むのかなあ〜〜〜
かみやさい?? しょうが とか ネギ だよね〜〜〜
そんで 根菜類。 知ってるよ! ニンジンとかジャガイモだろ。
え〜〜と それから 」
彼は シチュウの作り方 を熟読玩味していたのだ。
「 そ〜〜なんだよなあ ・・・
ブロッコリーも干しシイタケもジャガイモ・人参 〜〜〜
それに 牡蠣も 全部同時に 鍋にいれたら・・・・
― そりゃやっぱマズいよなあ 」
ふうう〜〜〜〜 なんか滅茶苦茶に納得のため息だ。
「 だよなあ み〜〜んな違うんだもんなあ 」
・・ うん?
みんな ちがう ・・・・?
あ。 そっか
突如 仲間たちの顔が浮かんだのだ。
出身も人種も年齢も − ぜ〜〜〜〜んぶばらばら。 違う のだ。
「 ・・・ あ。 シチュウ と 同じかあ ・・・ 」
彼がそれまで育った環境 ― 近い年齢の少年少女たち 一応全員日本人。
ちょいと特殊な 集団生活 ― とは この世の中は ちょいと いや
か〜〜なり 異なっているんだってことに 気付き始めている。
「 昨日のシチュウ。 ぶろっこり と ニンジン と じゃがいも。
牡蠣もだよ〜〜 一緒くたに鍋に放りこんじゃったじゃん・・・
だ〜から ぶろっこりは がりがり じゃがいも 溶ける
ホシシイタケ は なんか不気味な堅いモノ だったじゃんか。 」
舌で感じ 目でしっかり確認したから 記憶は鮮明である。
「 そっかあ ・・・ 皆 能力 も全然違うし。
トシも背も 人種もだよ?? み〜〜んな違うんだよ。
それを さ 一列で歩いてたら ― ヘン かあ
・・・ そうだよなあ 戦隊シリーズでも 」
彼がチビの頃からファンで ごっこ遊び にも熱中していた
TVの 戦隊ヒーローもの。 もちろん今だって好きだ。
「 そ〜だよぉ〜〜 皆が並んでるのって オープニング と
エンディングだけじゃん? そうだよ〜〜
戦いの時は 別々だったよ! そりゃ 赤が一番活躍してたけど 」
うん うん ・・・ と一人大きくうなずく。
気がつけば ベンチを離れ駅裏の大型スーパーに向かっていた。
「 あ・・・ 」
行き交うヒトが増えてくると 彼の独り言歩き は やっぱ迷惑・・・
というか 注目 されてしまう。
「 ヤバ ・・・ 」
彼はキャップを目深に被りなおすと スマホを仕舞いそそくさ〜〜〜と
大型スーパーの中へ入っていった。
さあ。 今日は美味しいシチュウ、作るぞぉ〜〜
ギルモア邸の晩御飯は ― どうやら 昨日も今日もシチュウ らしい。
「 わっせ わっせ〜〜〜 うわあ〜〜 やっぱ重いわあ〜〜 」
フランソワーズは 両手に買い物袋 肩から大きなバッグを下げているが
とうとう 道端で一息ついた。
商店街を抜け国道から ウチの前の坂道へと向かうところだ。
「 あ〜〜 ちょっと買い過ぎちゃったかなあ〜〜
でもね 美味しそう〜〜なお魚やエビがあったし♪
調理の方法も教わったわ。
八百屋さんでカリフラワーがあったのも嬉しかった〜〜
あとね 元気なセロリ。 これはトマトと煮込むとオイシイのよ〜〜 」
さあて。 と 買い物袋を取り上げた。
「 あと ちょっと ね。 さあ 今晩はママンのお得意だった
アルヌール家のブイヤベースよ♪ ぜんぶ一緒に煮込むの。 ささっと ね。
ね〜〜 < 揃えて > 美味しく煮えるわ 」
わっせ わっせ ・・・ ガシガシガシ −−−
「 ?? あ あれ ジョー??? 」
「 ん〜〜〜〜 え フラン?? 」
バス停の前で 大荷物の二人はばったり・・・鉢合わせをした。
お互いに荷物に気をとられ 足元しか見ていなかったので ―
わあ おおっと 「「 ごめんなさいっ 」」
危なく衝突するところ・・・
お互いに大慌てでお詫びをすれば ― あれれれ???
あ れ ・・・ やあだあ ・・・
「 ご ごめん〜〜〜 フラン 大丈夫?? 」
「 え ええ ジョー なんとか ・・・ ああ びっくり。 」
「 うん びっくり・・・ あ〜〜 たまご??? 大丈夫かなあ 」
「 え ・・・ ジョーも卵 買ってきたの?? 」
「 って フランも? 」
「 ええ。 ジョー、 たまごやき 好きでしょ。
あとねえ お魚とか海老とかも買ったわ〜〜〜
うふふ 今晩はね、わたしのママンのお得意料理を作るわ 」
「 え ・・・ あ そ そう? わ〜〜 」
「 あ ・・・ ジョーも買い物って ― もしかして今晩用? 」
「 ・・・え〜〜と あ うん ・・・
今日は ガリガリ・ぶろっこり〜 とか くたくたニンジン じゃない
ほっんとのシチュウを作ろっかな〜〜 って思って 」
「 まあ そうなの? 嬉しい〜〜〜♪
ね お世辞とかじゃなくて昨夜のシチュウ、美味しかったわ〜〜〜
ジョー すごいって思ったもの。 ふる〜ちぇ 最高だし♪ 」
「 え そ そう?? うわ〜〜 ホントに ・・・ 」
「 そうよぉ 一緒に揃えて ってことも必要よね 」
「 え??? 」
「 ・・・ ふふふ わたしの感想です☆
さ とにかく帰りましょ?
ねえ さすがの009でも 買い物の荷物は重いの??? 」
「 いやあ〜〜 ・・・ほら 全然形もちがって 柔らかかったり
ごちごちしたり 卵 あったり・・・って大変だよね??
1トンのロボット、が〜〜〜〜っと持ち上げる方が
ず〜〜〜〜っと楽さ 」
「 え ・・・ あ そっかあ〜〜〜
うふふふ ジョーって面白いわあ〜〜〜〜 」
「 そ そっかな〜〜 」
「 だってえ〜 009が巨大ロボットより卵に苦戦するなんて ・・・ 」
「 う うん ・・・ でも それが真実・・・
あ〜 本当のチカラ持ちってさ。 ジェロニモ Jr. みたいなヒトだよ。
彼 ミサイルだって素手で受け止めるけど小鳥さんだって やさ〜しく
そ〜〜っと掬い上げるだろ? 」
「 ああ そうねそうね 彼ってばね タンポポの綿毛をね
飛ばさずに摘み取ったりもできるの! 」
「 へ え〜〜〜 すっげ〜〜〜〜
ぼくなんかなんかさ 側、歩いただけで ぶわ〜〜〜 だよ 」
「 ね〜〜 ・・・ あ〜〜 重い〜〜 」
「 そっちの、持つよ。 ・・・ 代りにさ 卵 たのむ〜〜 」
「 うふふ 了解〜〜 」
わっせ わっせ ・・・ よいしょ よいしょ
二人が 大汗で買い物袋を持って家に帰りつくと。
「 ただいまで〜〜す ・・・・ んん?? 」
「 ただいま戻りましたァ なあに? 」
玄関のドアを開けるなり ジョーがなにやらハナを鳴らしている。
「 くんくん ・・・ なんか ・・・ いい匂い しない? 」
「 え・・・ あ ホント ・・・ってか 焦げそう?? 」
「 ! わ〜〜〜〜〜 大変〜〜〜 なんだ なんだ〜〜 」
「 キッチンよ! 」
バタバタバタ −−− バタンッ !
二人でキッチンに駆けこめば ―
「 おお お帰り。 おや二人一緒になったのかい 」
「「 博士〜〜〜〜 」」
ギルモア博士が 割烹着姿でガス台の前に立っていた。
「 え?? あ あの? 」
「 ふふふ〜〜〜 今晩はなあ ワシが作るよ! 」
「 ・・・ つ つくるって なに を ですか 」
「 晩飯に決まってるじゃないか。
ふふふ〜〜 これはワシの得意料理なんじゃ お〜っと 」
博士は 菜箸でフライパンの中身をちょいと動かした。
「 あ あ あの〜〜 なにか 焦げてません? 」
「 あ? いいんじゃ ちょいと焦げ目をつけて 」
「 ・・・ あ ニンニクと生姜の いいにおい〜〜〜 」
「 あら ・・・ お肉 ・・・ ですか 」
フランソワーズが ガス台を覗き込む。
「 左様。 ふっふっふ〜〜〜〜
ジョーよ? オトコの憧れ? 永遠の浪漫〜〜〜
肉厚の豚ロース肉でのタマネギたっぷり生姜焼き じゃ! 」
「「 え??? 」」
「 ふふん 大人なんかにいわせれば これは邪道だろうが。
しっかし。 まあ 諸君。 まずは食べてみておくれ。 」
「 わ〜〜〜〜 手、洗って・・・ あ その前に 買い物〜〜
た たまご!!! 」
「 そうよ〜 わたし お魚とか海老があるの〜〜〜
いいわ 急速冷凍する! 明日のお楽しみにするわ〜〜
あ 博士〜〜 仕上げはちょっと待ってくださいね 」
「 わかっとるよ。 冷凍はワシがやっておこう。
フランソワーズ、魚介類は この包みかい?
ジョー 卵は これ だな?
さ 着替えて手を洗っておいで。 」
「「 はい〜〜〜 お願いしますぅ〜〜〜 」」
若者たちは バタバタと出ていった。
― そして。
「「 !!! おっいし〜〜〜〜〜〜〜〜 」」
すぐに 若い歓声が響きわたる。
「 すご〜〜い おいし〜〜〜♪ これ・・・ ポークですよね?
ねえ 豚肉ってこんなに柔らかいの? 」
「 んま〜〜〜〜 あは ぼく ごはん お代わり〜〜〜
どうしよう〜〜 勝手にご飯が消えてゆくよ?? 」
二人の箸が止まらない。
「 いや〜〜 どうしましょう〜 とめられない〜 」
「 んま んま 〜〜〜 え 博士 これってホントに
生姜焼き ですかあ〜〜〜 んま〜〜〜 」
「 ほっほっ〜〜〜 もちろんじゃ。
ほれ 商店街のあの肉屋。 オヤジの御推薦の豚ロースだぞ 」
「 ・・・ いつも あのお店で買ってるんですけど・・
味が ヴォリュームが ぜんぜんちがうんです〜〜〜 」
「 そりゃあな 厚切りで、と注文したのさ。
何に使うのか、と大将が聞いたので 生姜焼き それも
トクベツ製 と言ったのさ 」
「 ― そしたら? 」
「 うむ。 筋切りを忘れんことと、ニンニクと生姜、玉ねぎ も
た〜っぷり使うと美味が増す、と指南してくれたよ 」
「 ・・・ ああ それでこんなに濃厚な味なんですね〜〜〜
すごい・・・ あ ジョー わたしもごはん、お代わり、お願い。 」
「 あ ・・・ いいの?? 」
「 ?? なにが 」
「 だって − 公演前なんだよね? ・・・ 食べ過ぎは・・・ 」
「 !!! あ ・・・ ど どうしよう〜〜〜〜
わたし もうゴハン山盛り、生姜焼きもほとんど食べ・・・ちゃった・・・ 」
わ〜〜〜 絶食だわぁ〜〜 と嘆く彼女に博士が助け船をだしてくれた。
「 ふふふ まあ それは少しは増量するかもしれんが。
スタミナもばっちり増えてるはずじゃ。
― 普段の倍、活躍しておいで。 十分 消費できるさ。 」
「 ものすご〜〜く美味しくて・・・ ああ 全部贅肉になったら
どうしよう〜〜 デブの白鳥 なんて・・・
もう〜〜 すぐに自習します ! 」
ガタン。 彼女は潔く? 箸を置いて立ち上がった。
「 これこれ・・・ 少し食休みをしなさい。
お茶でも飲んで ― 落ち着いてから トレーニングに励めばよいよ 」
「 ・・・ はあい ・・・ 」
「 ん? おい ジョー。 いくらなんでも もうお代わりは止めておけ 」
「 え ・・・ あ〜〜〜〜 はあい・・・ 」
ジョーは 渋々御飯茶碗を置いた が。
「 あ〜〜 ウマ〜〜〜〜 まだ お皿にソースが残ってるよね〜〜
ニンニク 効いててウマいんだよな〜〜
あ そうだ 食パン で食べよっかな〜〜 」
彼は食糧戸棚に飛んで行った。
「 おい! 腹、壊すぞ! 」
「 あは まだ 大丈夫で〜す うん 一切れざっくり〜〜 」
にこにこ顔で 彼は厚切りのパンを持ってきた。
「 これで ですね〜〜〜 皿に残ったこの濃厚ソースをつけて〜〜
ん〜〜〜〜 んま〜〜〜〜〜〜♪ 」
「 おい いい加減に 」
「 はあい これでお終いしますぅ〜〜 あ〜〜〜 うま〜〜〜 」
「 ・・・ ジョー。 お腹 出てもしらないからね 」
フランソワーズの つめた〜〜〜い一言が降ってきた。
「 え〜〜 んなワケないじゃん? ぼく まだ18だぜえ?
それになったって さいぼーぐ だし? 」
「 あ〜〜ら 10代だって肥満はいっぱいいるわ。
それにね〜〜 デブ防止機能 なんて誰にも搭載されてないと思うけど 」
「 ― え。 」
思わず ジョーが真顔になり パンを持つ手が止まった。
「 ね〜〜 博士? 」
「 あ あ〜 そういうコトは想定外なのでなあ。
開発プログラムには組み込まれておらんかったな 」
「 ほ〜ら。 ねえ 博士。 こちらに来てから大人って。
ますます こう〜〜〜 なりましたよねえ 」
フランソワーズは 両手で胴回りをわっさわっさしてみせる。
「 ああ そうじゃなあ 本人な職業上 いい宣伝だ、と喜んでおるがな。
まあ あまり肥満せんほうがいいなあ ― いくらお前たちでも。
ぴちぴちの防護服・・・というのは やはりちょいと なあ 」
「 ほ〜ら。 ・・・ ヒーローは やっぱスタイル抜群じゃないとねえ・・・
バレエでも芯を踊るヒトは男女とも ほっそ〜〜いでしょ? 」
「 ・・・ う ・・・ 」
「 さあて と。 わたし 自習レッスン、してきまあす。
あ お皿はねえ 食洗器に入れて置いて? それでオッケーよ 」
「 あ ・・・ああ ウン ・・・ 」
「 じゃ ね〜〜 食いしん坊のヒーローさん♪ 」
ちゃお♪ と 彼女はウィンクを残し颯爽とキッチンを出ていった。
「 ふふふ 顔色もよくなったし。 張り切っておるなあ 」
「 ・・・ 博士 太ります? ぼく・・・ 」
「 そりゃ 消費量以上のカロリーを摂取すれば 誰でも 」
「 う う ・・・・ が〜〜〜〜ん 」
「 ああ 皆 満足してくれて嬉しいのう ・・・
ふふふ たまには料理もいいものじゃて。 さて と。
フライパンは洗ったし ガス台もクリアじゃな。
ジョー 自分の食器はちゃんと洗っておけよ 」
「 ・・・ え あ はあ ・・・
太る ・・ かなあ 腹 出る かなあ
」
「 なんだ? 食べ過ぎて具合が悪くなったのか? 」
「 あ い いえ ・・・ あのう ・・・
ふ 太ったら どうしたらいいのでしょう ・・・ 」
「 はあん?? 」
「 そのう ・・ た 食べ過ぎで は 腹が出てしまったら
ど〜したら??? やっぱ 再改造、ですか 」
「 ああ? 摂取量が多すぎたら消費すればよいだろう?
フランソワーズがしっかり実践しておるではないか 」
「 あ ・・・ ジムとか行ってトレーニング・・・ ですか?
・・・ 金 かかりますよねえ 」
「 ま 朝晩 海岸線でも走ればいいんじゃないか?
お手軽だし 費用もかからんし 」
「 ・・・ そっか !
よおし〜〜 すっきり細身のジョー になる!
そんでもって フランの公演、観にゆけばいいですよね! 」
「 あ〜 そうじゃなあ きっちりスーツが決まるように
なっとけよ?? フリースにジーンズはNGだからな。 」
「 ・・・ は はい が がんばります。
ああ でも ほ・・・っんとオイシイ生姜焼き だったなあ〜 」
ジョーは ぶつぶつ言いつつも 後片付けを始めた。
、
トン トン トン −−−−
夜の廊下は意外なほどに足音が響く。
ジョ―は パーカーを脱ぎつつ そう〜〜っと歩いた。
さきほど思い立ってすぐに! そのまま海岸線を走ってきたのだ。
「 ふう ・・・ な〜んか結構汗 かいちゃったな〜〜
うん ・・・ 気分いいし? 走ってるとどんどん足が軽くなるよな〜 」
シャワーを浴びようと バス・ルームに向かったが ―
♪♪♪〜〜〜 ♪♪ ♪〜〜〜
地下のロフトから微かに音楽が聞こえてくる。
「 ・・・ あれえ フランってば まだ自習してるのかなあ ・・・
あ 彼女もシャワー 使うかも・・・ 」
彼は地下への階段を降りる ― 邸の地下はロフトとメンテナンス・ルームで
普段は誰も使っていない。
博士は ロフトの一つをフランソワーズ用のレッスン室に改築していた。
♪♪ 〜〜〜 ♪♪
「 あれ 音だけ? ・・・ ああ 動画、見てるのかあな?
あ〜〜〜 フラン?? 開けていい? 」
コンコン ・・・ 小さくノックする。
「 う〜〜ん ・・・ え? あ ジョー? どうぞ〜 」
「 ごめん 練習中? ジャマして ・・・ 」
「 あ いいの。 ちょっと確認したくて動画、見てたから 」
「 そうなの? ( わあ ・・・ ) 」
稽古着の上にいろいろ着込んでいるけれど すんなりした身体の線や
脚の形がはっきりとわかる。
うへ ・・・ ど どきどきしてきた・・・!
あ でも キレイだなあ〜〜
「 あ ・・・ あのう〜〜〜 」
「 なあに? あら〜〜 ジョー 汗びっしょりよ?
あ 走ってきたの? すご〜〜い〜〜〜 」
「 え? あ あは う うん ・・・・
あの ・・・ 腹 でたら 困るから さ ・・・ 」
「 きゃあ すご〜〜い〜〜〜☆ ステキよ ジョー♪ 」
「 そ そう ・・・? あの ジャマしてごめん。
ぼく 今からシャワー使っていいかな〜って 思って 」
「 あ どうぞ どうぞ。 わたし もう少し、コレ、見るから 」
「 ?? 動画?? 」
「 そ。 ウチのバレエ団の 『 白鳥〜〜 』 よ。
前回の公演のビデオを借りてきたの。 」
「 ふうん ・・・ うわあ ・・・ 」
モニターの中では 白い衣装の人々が縦横無尽に? いや 実に正確に
きっちり列を作って踊り また 移動している。
え ・・・ これ も バレエ??
なんか ・・・ 集団競技みたい・・・
「 あ あの ・・・ きみは どこ 」
「 これには写ってないの。 わたしはね え〜〜と ここ。
この位置を踊るの 」
彼女は 動画を止めずに ぱ・・・っと一人のダンサーを指した。
「 え え え〜〜〜〜? あれれ どこかへ行っちゃったよ?? 」
「 ほら 移動してるの 皆でフォーメーションを変えるの 」
「 うわあ〜〜 え え え??
なんで 皆 同じ高さの足なわけ??
だって みんな 背もちがうのに 」
「 それを < 揃える > のが コールド・バレエのテクニックです。
・・・って これはウチのマダムの受け売りだけど 」
「 へ え ・・・ 」
「 二ホンのヒトは < 前へならえ > で 慣れてるのでしょう?
・・・ こういう、他のヒトとそろえるってことに。 」
「 前へならえ??? ・・・・ あ あ〜〜〜 そう かなあ?
こんなにきっちりは出来ないよ 普通 」
「 でも 揃える ことに抵抗はないでしょう? 」
「 あ〜 まあ ねえ 」
「 ・・・ わたし それを学んだわ。 ふうん・・って思ったわ。 」
「 そ そう? 」
「 そうよ。 揃えるべき時は きっちり!
うふふ ・・・ 次に防護服を着るときはね
ちゃ〜〜んと三番目をきっちり進みますわ。 」
「 え・・・ あ〜 うん ・・・
ぼくはいつだって最後尾さ。 殿 ( しんがり ) を護るのは
大事なんだよぉ 」
「 そっか・・・ 最後尾を行くって 勇気が必要よね。
そうよね ジョーにしかできない < 場所 > かも 」
「 そ そっかな ・・・ ぼくはぼくのポジションを きっちり
護るんだ ― 走りながら考えたんだけど 」
「 さっすが〜〜〜 009♪ 」
「 えへ ・・・ オイシイもの、食べて脳が活性化したかも 」
「 あ な〜るほど・・・ そうよねえ
わたし なんかとっても元気なの! 」
「 ・・・ あ あの。 と〜〜っても キレイ だよ フラン・・・
なんか ぴかぴかしてる 」
ジョーは眩しそう〜〜に 彼女をちら・・っと見たけど
慌てて そっぽを向いてしまった。
「 そう? 嬉しい! ジョーの褒めことばってすっごい貴重だもの。
ありがと! わたし 頑張るわ 」
「 へ〜〜〜〜っくしょん ・・・ あ 冷えたかな ・・・ 」
「 ジョー 〜〜〜 先にシャワー して!
ってか オフロ もう一回 入ってあったまってね 」
「 あ 先に使って いい? 」
「 もちろん! 」
「 サンキュ ・・・ あは でもさ お腹がシアワセだから
なんかすげ〜 元気だよ 」
「 うふふ・・・
ねえ わたし達って ― シチュウで 鍋料理で 生姜焼き なのね 」
「 は い ・・・?? 」
思いがけない発言に ジョーは目をぱちくりしている。
「 明日の晩ね、わたしのママンの得意料理を作るわ!
お魚とかエビとか野菜とかを み〜〜〜んな一緒に
トマト味で煮るの。 すっごく美味しいのよ 」
「 へ え ・・・? 」
「 ね みんな 一緒 で美味しくなるのもあるのよね
」
「 ・・・ あ そ そうなんだ? 」
「 そうなのよ。 いろいろ・・・ あるってこと。
あの ね。 ― そりゃ 闘いはイヤだけど・・・・
でも その時は それぞれの能力に応じて闘うし
一緒に同時に動く時は揃えるし 皆がしっかり組めば
最高〜〜に美味しい生姜焼き になるのよ 」
「 あ ・・・ は ・・・・・ 」
ひゃ〜〜〜〜 なんか ・・・
女のコの 想像力って すごすぎ〜〜〜
「 いろいろ あるのよ! わたし すご〜〜く納得したわ 」
稽古着の上にニットやらダウン・ベストを着込んだ 003さんは
に〜〜っこり 笑った。
― 翌朝 かなり早い頃
た た た た −−−− ト ト ト ト ・・・
ギルモア邸の眼下の海岸線を 茶髪と金髪が並んで走ってゆく。
「 は は は −−− フラン〜〜 オッケ〜? 」
「 は は は 〜〜〜 はい もちろん! 」
「 きみ すごいね〜〜〜 全然 平気じゃん?
結構スピード 出してるよ 」
「 ふふふ 基礎体力は ありますので。
ねえ ここをず〜〜〜っと行くの? 」
「 そうだね〜〜 少し 海の方 波打ち際へ行こうか 」
「 あ オッケ〜〜 」
ザザザザ −−−−−− ザーーーー
白い泡を浮かべ 波が二人の足元に寄せ そして また帰ってゆく。
「 冬の海ってさ ・・・・ なんか いいよね 」
「 ん ・・・ そうね ・・・
わたし 冬の空も好きよ? ほら ・・ みて 」
金髪を揺らし 彼女はまだ白っぽい空を指す。
雲の切れ目からは 濃い青が覗く。
その合い間を 幾つかの影が横切ってゆく。
ひゅ〜〜〜〜 るるるる ・・・・
「 ねえ あれ 鳥? 」
「 うん ? ― ああ 渡り鳥だよ 」
「 南へゆくの? 温かい地域へ
」
「 いやあ どうかなあ 北に戻る種類もいるんだって 」
「 ・・・ へえ すごい ・・・
わああ ・・・ ねえ みて みて 」
鳥たちは Vの字になってきっちり整列して飛んでゆく。
間隔もきっちり同じ ― Vの字が乱れることなく羽ばたいてゆくのだ。
「 すご〜い ・・ コールド・バレエ だわあ
あ。 白鳥〜 のコールドってあのイメージなのかも ・・・」
「 そうなんだ? うん すごいねえ 」
「 あれって あの飛行隊形って ちゃんと航空力学に適ってるんですってね 」
「 え? ああ うん。 聞いたこと、あるよ。 先頭はリーダーさ。
順番に若手と交代するんだって。
えへへ これはね 本の受け売り。
『 ニルスの不思議な冒険 』 ってね ・・・ 」
「 ・・・ そう ・・・
わたしも 鳥になるわ。 鳥になって きっちり揃えるときは
目線も首の傾げ方も 揃える。 でも 自由に飛ぶときは 」
「 飛べよ!!! ずっと・・・・ !
このお〜〜ぞらに♪ だよぉ〜〜〜〜 」
ジョーは 空に向かって ばっさばっさと腕を振った。
そう ・・・ 鳥になって。
************************ Fin.
***********************
Last updated : 01.24.2023.
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*********** ひと言 **********
なんか うまくタイトルと内容が 合ってないかも・・・・ (;O;)
フランちゃんのお誕生日なのに こんなハナシの〆で
ごめんなさい <m(__)m>